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訪問介護事業所に勤務するミカさん

今回のお相手は、ミカさん(仮名)です。長らく介護施設にご勤務の後、訪問介護の世界に飛び込まれました。それぞれのお仕事で感じる違いなどについて、お話を伺いました。
※インタビューに応じてくださった方に関する個人情報保護の観点から、お名前は仮名とし、職場に関する役職名その他委員会等の名称を実際の名称から一般的な名称に変更しています。具体的なエピソードについても、趣旨を損なわない範囲で編集をしています。

―それではさっそくお話をうかがっていきます。これまでのご経歴を簡単に教えていただけますか?

 短大を卒業して老健に入職して、なんやかんやあって引っ越しをして(笑)。引っ越し先で就職した社会福祉法人で従来型の特養とユニット型の特養に介護職員として勤めてきました。そこまでで通算15年くらいになるかと思います。数か月前に、ご縁があって訪問介護事業所に転職をしました。

―では現在の勤務先でのお仕事について、お伺いをしていきます。職種としてはサービス提供責任者としてお勤めでしたね?

 そうです。これまでに訪問の経験がないなかでのサ責で、分からないことばかりで大変です。どっから手をつけていいのか… (笑)

―今は先輩について教えてもらっている?

 そんな感じです。

―訪問介護そのものがはじめてとのことで、サ責としてだけでなくてホームヘルパーとしてのお仕事も覚えている最中でしょうか?

 今はそちらのほうがメインですね。

―そうなんですね。一日に何件くらい回られるんでしょうか?

 多いときで4件かな。1件が長いことが多くて。今は介護保険ではなくて、障害の制度を利用しての方が多いですね。重度訪問もあるし、身体介助も生活援助も。

―特養介護職からの転身と言うことで、戸惑いはありましたか?

 ありますね。ずうっと認知症のある方のケアに入っていたので。頭はしっかりされているけれど体が思うように動かない、以前の元気なご自身の姿と比べて悲嘆されているような方や、現在進行形で体が動かなくなっていくご病気の方のケアに今入っていて、障害だとか自分のことの捉え方の違いを感じます。認知症の方って症状が進むことで、良くも悪くも忘れていかれるっていうところがあって。今、その時その瞬間で生きていらっしゃる方のケアも難しいですけど、ずうっと思いが続いていてそれを把握している方のケアも難しいなって。

―ちなみに年齢はどれくらいの幅がありますか?

 若い方が30代、高齢の方で80台ですね。私の担当ではないんですけど、事業所の利用者にはお子さんもいます。

―支援の内容としては、たとえばどんなことをしていますか?

 多いのは生活援助でお掃除や調理、買い物の代行が多くて、身体で入る方はほぼいろんなことが全介助ですね。トイレ・おむつ交換だったり、入浴だったり。

―朝は早いときはどれくらいから動いてますか?

 一番早いのが7時。

―おお。施設の早番と同じくらいですね。

 そうですね(笑)

―遅いとどれくらいですか?

 私の担当で一番遅いのは20時~21時ですね。事業所のなかで言えば0時までの人もいます。

―朝一番早い支援と夜一番遅い支援が同じ職員同じ日に重ならないようにしているんでしょうか?

 はい。重なることはないです。基本的には9時間拘束の8時間労働です。どうしてもケアが詰まってしまって超過勤務になることもあるんですけど、訪問が少ない時に早めに退勤する日を作って調整をするようにしています。

―ミカさんのお勤め先の職員構成を教えていただけますか?

 はい。ヘルパーが11名、管理者1名、サ責1名です。そして別に法人の代表がいます。法人そのものの歴史がそれほど長くなくて、事業所内のことはまだまだ流動的な部分が多いです。人の入れ替わりもこの1、2年でようやく落ち着いてきたかな、という感じみたいです。
 初期の頃はとにかく人手が足らず、法人の理念であるとか性格に必ずしもマッチした人の採用がなかなかできずにトラブルになっていたこともあったようです。
 紆余曲折を経て、法人との相性を丁寧に見定めて採用をするようになって。新卒の子も積極的に採用していますね。

―これからもっとチームとしてよくなっていく最中なのですね。そして、ミカさんもまた、新たに仲間に加わったお一人なのに、法人のこれまでの歩みをよくご存じで、びっくりです。それは代表の方とよくコミュニケーションが取れている、ということなのでしょうか?

 そうですね、みんなよく話していると思います。

―ミカさんはサ責としての管理的なお仕事も少しずつ、教わりながら取り組んでいらっしゃるのですよね?

 そうですね、書類関係のことであるとか、担当者会議に出たりとか。そういったマネジメント的な仕事ももちろん必要なんですけど、私はどちらかというと、今までの経験を活かして介護技術の相談に答えられる人でいたいなと思っていて。それを求められているところもあったりするので。

―経験豊富なミカさんから介護技術を教わることができるというのは、新卒の方などは特に学びが多いでしょうね。

―ミカさんのお仕事の配分として、事務所にいる時間と、外で動き回っている時間というのはどれくらいの比率でしょうか?

 それは本当に日によるんですよね。ケアが詰まっている日はずっと出っぱなし。ケアがない日は午後まるっと3、4時間いたり。

―1回も出ないことはないですかね。

 ないですね。出勤日はかならず訪問が入っています。

―施設などですと、朝礼があったりしますが、ミカさんの訪問の事業所では、そういった機会はありますか?

 ないですね。そういった、全体が集まるようなことはまず難しいので、そこが課題だったりはします。今年度入った新卒の子たちの同行が終わると、それまで付いていた先輩職員の時間がドンと空くので、中核職員だけでも集まってミーティングができるんじゃないかな、というのがやっと見えてきたところです。代表が活動的で、アイデアもよく出してくださるんですけど、その内容をもっと詰めていこうであるとか、トップダウンにならないようにしようとか、っていう話を事業所内でしていて。

―施設から訪問にということで、時間的な追われ感はこれまでと比べてどのように思いますか?

 ええと、ゆっくりしています。特に障害の制度のお客さんだと、訪問の時のケアの内容が介護保険のお客さんと比べてふわっとしていることが多いというか。家事援助というくくりのなかでできることを時間内にやる、身体介護で入浴のお手伝いするにしても1時間まるっと取ってあったりして。1時間なり2時間、その人のための時間がちゃんと取ってあるといところで、施設に比べて追われ感はないかな。

―それがもちろん良い部分であるとは思いますが、マイナスの面はありますか?

 そうですね…やるべきことが決まっていないことの不安、何をやったらいいんだろうと。まあ利用者さんに聞けばいいんですけど(笑)

―訪問介護となると基本的にその場には自分一人ですよね。一人であることの不安感はいかがでしょう?

 そこは意外と大丈夫ですね。今担当している利用者さんは、コミュニケーションが取れないっていうことはないので。「これやってほしい」「あれやってほしい」に対して「やりますね」とか「それはヘルパーではできないんです」というようなやりとりをすればいいことで。

―施設では経験のなかった内容のこともたくさんあると思います。買い物も調理も。他人の家の道具を使って他人の家を掃除するであるとか。そのあたりはスムーズに慣れましたか?

 お客さんによりますね。ものすごくこだわりの強い方もいれば、「もうなんでもいいわよ」みたいな人もいるので。今入っているお客さんはかなりこだわりが強くて、そのうえ生まれた国も違って、経済的な生活水準も高い、というような方で、そうなると戸惑うことは多いです。
 たとえば相性が悪くても、施設だと別の職員に対応を替わってもらえるじゃないですか。その時の機嫌が悪かったら、じゃあ他の職員がいいかなとか。そういうのができないっていうのが…嫌でもなんでもその時間はそこにいないといけない…お互いに嫌でも。そういう大変さはありますね。

―訪問に転職してみて、これは施設特有の大変さだったなと改めて気付いたことはありますか?

 やっぱり時間で動くことですかね。そんなつもりは全くないんですけど、流れ作業になりがちで。排泄の時間だからみんなに声かけなきゃとか。ある程度の日課が決まっているなかで…特に従来型の方がそういうふうになりがちでした。それゆえに職員主導になったり、日課が優先されてご本人が不在の声かけになったりだとか。そういう葛藤は常にありましたね。本当はこの人にとってはこの時間じゃないんだろうなって思いながら、本人に合わせてあげられないのが。どうしても業務を追っていかないと、全員に均等なことが行き渡らないっていう大変さはあったなと思います。

―それは施設勤務時代からもちろん感じてはいたけれども、転職を経てなおそこが思い出されますか?

 強く感じるところですね。

―施設では夜勤があって、利用者さんの夜の様子が分かると思うんです。今のお勤めのところですと、夜間の訪問はないということなので、夜の様子が分かるかどうかで違いはなにかありますか?

 認知症などでご自身の思いだとかやってほしいことを上手く伝えられない方だと、夜の様子が分かることもすごく大事だなと思うんですけど、今見ている方々は自分のことを自分の口でちゃんと言える方が多いので、そこはちょっと違うのかな。

―施設であると、一人立ちをしてからもその職場には先輩がいて、教わったり時には怒られたりすると思うのですが、訪問では独り立ち後の職員間のそういったやりとりはどんなご様子なのでしょう?

 そこは今の職場がとても頑張っているところだと思うんですけど、先輩の同行がものすごく長いんですよ。お客さんと、担当になるスタッフが納得するまで同行するっていう方針で。私も今同行をしてもらっている人がいて。週1回の訪問の方なんですけど、1ヶ月同行に付いてもらってますね。ケアの時間が長くてやることが多いと長く、納得するまで付いていてくれます。

―すばらしいですね。

 そうですね。その同行が終われば先輩の時間が空いて、新しいお客さんも受け入れられるということで。しばらくしんどい時期が続くけど、そこを越えてしまうといろんなお客さんを受けられるメリットはあるので。

―そのあたりの同行の長さは、訪問に入る頻度にもよるのでしょうか?

 はい。私はけっこう入職してすぐ、新規のお客さんで同行もなにも、これから自分がケアを作っていくっていうこともあったんですが(笑)

―おお、そこは早くも任されているのですね。

 そうですね、おかげさまで。

―お料理や家事全般について、あまり抵抗はないですか?

 そこはあんまりないですね。施設のなかで一通りの経験をしてきて、身体介護もそんなに難しいなと思うところもなくて。そこの経験が活かせてよかったです。

―身体介護は自信がありますか?

 そんなに、難しいなって思う方はいないかなあ。ただ何が違うかっていうと、重さが全然違うんです。体格が同じくらいだとしても、80代の人と40代の人では全然違うんですよね、重さが。

―ええと、それはたとえば骨とか筋肉量とかの差なのでしょうか?

 はい、単純に若いと多くて詰まってるなって感じます。
 それから、脊椎損傷、脛椎損傷の人たちはあまり高齢者の介護施設では見かけないじゃないですか。そういう方たちで自分の体を自分で支えられないとなると、全体重がかかってくるので、これまでの身体介護の経験からすると、より重たく感じます。

―これまでのご経験のなかで腰を痛めたことは?

 ええと、腰を痛めたのは仕事を始めて1、2年目。そこから治療をして、この10年弱はあまりいたいなと思うことはないですね。もちろん疲労は溜まるんですけど、休めば解消されるレベルです。

―素晴らしいですね。では、訪問で感じる「重み」も、今までに培ってきた技術でカバーできる範囲ですか?

 そうですね、カバーできるかなって。

―すごいことですね。

 それだけ多くの人たちに関われたんだなと思います。

―そのあたりの技術を新卒の子達に伝えることはしていますか?

 技術的なところは伝えてはいて…ただその…技術を教えるというよりかは技能として教えたいですね、介護を。

―もう少し、詳しく教えていただけますか?

 何でこの人はこんなに重いんだろうとか、どうしたら軽く感じることができるんだろうとかを考えられるようになってほしいんです。たとえばどうやったら人間の体は歩いているんだろう、っていうのをちゃんと伝えたいなって思っているんです。
 新しくキネステティクスっていうものを勉強し始めたのがきっかけで。そこでの学びから「あ、だから私、腰を痛めなかったんだ、だからあの時の利用者さんにあんまり拒否をされなかったんだ」っていうのがちゃんと言葉にできるようになってきて。

―ミカさんの体の使い方は、長いご経験の中で身に付けてこられたと思うのですが、それは誰かに言葉で教わったのか、あるいは利用者さんと向き合うことで自分の中で醸成していったのか、どちらの感覚の方が強いですか?

 どちらかというと後者の方が近いかもしれないですね。どこも一緒なのか、私のいた施設だけなのかは分からないですが、なかなかそういうことを先輩などから教えてもらう機会ってないんですよね。その人のやり方は教えてもらえるけれども、結局「その人とその利用者さんにとってのやり方」であって。そうなると私には上手くいかないことがたくさんあって。上手くいかないっていうのは、相手がすごく痛そうな顔をしているとか、拒否が出てくるとか。どんなにやっても重たいし腰は痛くなるし。そこから利用者さんと向き合ったり、介護技術系の本を読んで試して、「なんでこの人にはこのやり方がフィットするのかな」っていうのを考えたりしていました。あとは教える側として、新しく施設に入った職員に、いわゆる教科書で教えてもらうようなボディメカニクスを使ってどうのこうのっていうことを説明しても全然分かってもらえなかったっていう経験もありました。「なんであの子達には伝わらないんだろう」「利用者さんしんどそうな顔してるけど、なんで気づけないんだろう」と悩んでいたところで、キネステティクスとの出会いがあったんですけど。

―素敵な出会いですね。これまでのご経歴の中で、この人はすごいなと憧れた人はいましたか?

 キネステティクスの講師の方は、すごいなと思いましたね。私のやりたかったことをどんどんやっていらっしゃる方だなと思って。未来の介護職の人を創っていくというところと、それでいてご自身も介護職として時間もお金もかけて研鑽していて素晴らしいなと思います。

―きっとミカさんは、探求心がお強いのかなと想像するのですが、職場にそこまで探求心の強い人ってなかなかいらっしゃらないのではと思います。そのあたりの温度差を感じることはありましたか?

 あー、確かに温度差は感じるんですけど、「こうやったら楽にならない?」「知ってたら楽にならない?」っていう一点で伝えるようにしていました。ケアの総量もそうだし、難しい人の対応も、「ちゃんとしたことを知っていたら楽にならない?」「だから知ろうとしてみない?」って誘う感じで、知らないことに対して憤ることはないんですよね。

―そうなんですね。憤ってしまう人もいるのかなと思うんですが、素敵ですね。

 そういう時期もあったんです、もちろん。ただ、私ができることでも他の人ができないのでは意味がないんだなと気付いた時期があって。そこから他人にあまり求めなくなったんです。私がちゃんとやればいいし、私が分かるように他の人に伝えていけばいいんだって。

―そのあたりはなにか転換のきっかけはありましたか?

 前の特養時代、リーダー職をしていたときに、あんまりいいタイプのリーダーではなかったんです。「なんでできないの、なんでこうやってやらないの」って言っているタイプの。目もつり上がっていたし。そこでやっぱり総スカン食ったんですよね。ワケわからない、ついていけないみたいな。その時に「あ、違うんだ、リーダーってガミガミいう人じゃないんだ」って気付いたんです。今まで自分の上にいたリーダーさんってガミガミいう人がほとんどで、それをリーダーだと思ってて(笑)
 だけど別にそんなことしなくても、毎日出勤してるだけで偉いし(笑)、8時間ちゃんと働いて、その時間に収まっているんだから、「ちゃんとやってるんだよな本当は」っていうところに気付いて反省して。当時の上長と話をしていくなかで諭されました。

―その上長さんとは良好な関係だったのですか?

 私はけっこう一方的に憧れていましたね。自分で無茶苦茶勉強している人で。そのうえ勉強したことを試しているんですよね。
 試すといっても例えば私への指示や指導が、自己啓発本で「リーダーとは」みたいなのを読んだんだろうなって分かるレベルで下手くそなんですけど(笑)、でも目の前でそういう試行錯誤する姿勢を見せてくれる人で。そのうえで指示・指導についてちゃんと意図を説明してくれる人だったんです。

―自己啓発本の受け売りだと、しらけてしまいそうなところもありますが(笑)、それが嫌味なく見えるような、魅力的なお方だったんですね。

 そうですね(笑)

―本当に素敵な出会いを重ねていらっしゃいますね。今は新しい職場で、新卒の子達にとってのそういう存在に。

 なりたいなと思いますね。まだまだですが。

―これから勉強してみたいことはありますか?

 今はキネステティクスをもっと深めていきたいなと思っています。今まで培ってきたものをちゃんと伝えられるようになりたいというのがあって。

―本当に勉強熱心でいらっしゃって…指導を受けられる後輩の方々がうらやましいです。これからが楽しみですね。本日はお話ありがとうございました。

今回のインタビューはここまでです。「目が吊り上がっていた」時期がおありだったとは思えない、明るく軽やかなお話しぶりで、楽しい時間を過ごさせていただきました。ご協力、ありがとうございました。