case08
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)に勤めるちびさん
今回のお話は、ちびさん(仮名)です。ちびさんが、どんな思いでご高齢の利用者さんと向き合っているのか、じっくりとお話をしてくださいました。
※インタビューに応じてくださった方に関する個人情報保護の観点から、お名前は仮名とし、職場に関する役職名その他委員会等の名称を実際の名称から一般的な名称に変更しています。具体的なエピソードについても、趣旨を損なわない範囲で編集をしています。
―今のちびさんのお勤め先はどちらでしょうか?
認知症のグループホームです。管理者をしています。
―ユニットの数は?
二つです。
―併設のサービスはありますか?
単独です。違う法人の老健と居宅は隣にありますが。
職員の交流は特にないですが、私は居宅の人と顔見知りだったりしますね。
―プレーヤーとして現場に入ることはありますか?
ここ最近はあまり入っていないですね。状態が安定しない利用者さんの食事介助を手伝ったり、プラスアルファとして入ることはあります。
―シフトの種類はどんなものがありますか?
うちの場合は夜勤が8時間のもので、仮眠を3時間取っていて。建物が平屋建てで、各ユニットの夜勤者が交替で仮眠を取れるようになっています。
早番と日勤、遅番でユニットごとに3人ずつ。そこにパート職員が9時~15時か、9時~18時にいます。日中はホームとして8人くらい。そこに自分をいれて9人で回しているような状況ですね。
―お食事の準備はどなたがしていますか?
介護職員がしています。コロナの状況があって、利用者さんに手伝ってもらうのが難しくなってしまったんです。以前はできる方には簡単なことをしてもらっていました。今は基本的にそういったことを中止していますね。
―私もグループホームに勤めていた経験があるので、日中に勤めている人の数としては手厚いほうかと思うのですが。
そうですね。だいぶ多い方ではと思います。
―最近は現場に入っていないというお話でしたが、だんだんと人が増えてきたのでしょうか?
はい。自分が管理者をやりはじめてこれで10年くらいなんですけど、3、4年を過ぎたあたりから、労働環境の改善などにも力を入れていました。年齢を重ねてパートになる人もいたりするのですが、そういった人にもなるべく長く勤めてもらえるようにという感じでやっていたら少しずつ、ちょっとずつ人員に余裕が生まれていって、今の形になっていきました。5年過ぎたあたりからは今の状況になって、4年くらい退職者がいない状況です。
―すごいですね!
いえいえ。人の入れ替わりがないとも言えますし。
―ホームでは何人の方が働いていますか?
今は自分をいれて16人ですね。
―ちびさんは今のグループホームに管理者としてもう10年ということですけれども、管理者になる前もこのホームにお勤めでしたか?
僕自体は、法人に在職15年以上なんです。最初は老健に介護職として配属されました。その後病院の給食にしばらく。
僕は元々調理師の学校を卒業してまして。介護職で老健に入って1年がんばってから厨房に入ったんですけど、そこから、グループホームの管理者がいなくなったということで、今のホームの管理者に異動と…まあ、変わった経歴ですね(笑)
―すごいですね(笑)ええと、グループホームには、お食事づくりもありますから、なんというか、腕の振るいどころがあったということなのでしょうか…?
うーん、よくわからないですけど、白羽の矢が立った感じで(笑)
―ええと…ちょっとビックリしてしまったんですが…もう少し時間を戻して、介護に携わる前のご経歴について、教えていただけますか?
僕は本当に、介護に興味があって介護を始めて…というのではないので…調理師の専門学校に通っていた時に、ヘルパー2級を取ってはいたんですけど。
―それはなにかアルバイトでもしようと考えてでしょうか?
調理師の学校に通いながら、時間的にも資格が取れそうな時期があって、興味本意で。そのヘルパー2級の資格を、今の法人に採用されるときに考慮されて、まずは老健に介護職として配置されました。
もともと僕は集団給食をやりたかったんです。僕が17歳の時に祖父が亡くなりまして。その時の経験から病院食を作りたいな、老人向けの食事やりたいなっていう思いがありました。やりたいこととは違いましたが、現場に介護職として入るのも、いい経験だと思って、1年頑張りました。
―そこから、念願の厨房で働いて、その期間は楽しかったですか?
そうですね。けっこう自由にやらせてもらえる場所だったので。いろんな食事の提案をしていました。今はもうムース食って皆さんよく知っていると思うんですけど、昔はまだそれほど一般的でなかったので、そういうものを作る手順だったりとかっていうのをよく試行錯誤して取り入れたり。楽しかったですね。
―そんななか、グループホームの管理者としてお声が掛かるわけですけど、そこは、厨房を続けたいという思いとどのように折り合いをつけられたのでしょうか?
ちょうどその時、結婚をして、20代半ばを過ぎた辺りだったので、チャレンジをしてみてもいいかなと思って。それも興味本意で受けたっていう感じですね。
―すごく思いきったチャレンジですよね。
そうですね、今思うと、受けない方がよかったかも(笑)
―すごいです(笑) 介護職としてのご経験もさほど長くないなかで、グループホームのプレーヤーたちを束ねる立場で右も左も分からないというようなことじゃないかと想像するのですが、どんな状況でしたか?
やっぱりそうでしたね、すごいグチャグチャでした。配属されたホーム自体が、できてからまだ2年くらいで。プレーヤーたちも、経験の長い方を引っ張っては来ていたけど、まとまってない状態で。すごい大変でしたね。
―その当時と比較して、今は良くなっていると思いますか?
そうですね、当時よりは全然良くなっている思います。ただ、ずっと考えたり悩んだりすることもあって。うちの施設で看取りをさせてもらっているので、最期まで看れる限りは看させてもらいたいなっていう思いもあるんですけど、やっぱり見送る側がたくさんあるので、ちょっと疲れてしまう部分もあるというか。
―そういった想いや悩みは、現場の方々と共有することはありますか?
看取りの時期に際しては、もちろんユニットの中でその利用者さんの状態は一緒に共有はしていますし、その利用者さんはどういう終末を迎えたいだろうかっていう話は意識してします。そこらへんはユニットで全員が一致するとすごい力を発揮するけど、やっぱり考え方がちょっとずつ変わってくるときもあったりして…。そこへ今、このコロナの状況でやってあげられることが少なくなっているということがあるので、そういうのが悩ましいですね。
―そうなんですね。いろいろと厳しいですね…悩みながら。
少しお話戻りますが、労働環境含め、ホームの状態が良くなってきたとのお話でした。これまでに、どんなことをしてこられたか、意識していたことがあれば教えていただけますか?
僕は管理者をやらせてもらって、各ユニットにリーダーさんがいて、その下にサブリーダーっていう組織なんですけど、僕はあくまでもそのリーダーをサポートする役に回るようにしていて。やっぱりリーダーさんが利用者さんに一番近いところにいて。利用者さんたちの暮らしをどうしたいかっていうリーダーさんの思いをなるべく叶えてあげられるようにしたいんです。リーダーさんを育てるのに僕は一番力を注いでやってきましたね。
―調理の勉強というのも専門的にやってこられて、厨房でも腕を振るわれて、そのあたりのことはグループホームに来てから、活きた場面はありますか?
そうですね…作ることに関しては、伝えたり見せたりはもちろんできるんですけど、どちらかというと「食べること」を意識してくれるように力を使っています。やっぱり食べることで元気になれるので。飲み込みやすい形態だったり、食べやすいタイミングだったり、昔からよく意識するようにしていました。そういう「食べること」について、利用者さんの状態に合わせるのはわりとできていると思います。
―グループホームで具体的に料理の腕を振るったりすることはありますか?
最近はそんなにないですけど、イベントで寿司握ったりとか天ぷら揚げたりとか、そういうのはやります。
―素敵ですね!職員さんからも喜ばれそうな。
まあ、たまにですけど(笑)
―イベントなどですと、集団にむけての料理になるので、腕の見せ所ですね。
そうですね。食べ物系のイベントはよくやらせてもらっているので。
―食に関することは、入居を検討される方たちに説明をしていますか?
あー、そんなに言っていないですね(笑) ウチがわりと山奥というか、自然に囲まれた環境にあって、広い庭と畑があるんです。自然を活かしてのんびりすごせるような、田舎っぽいような施設を目指しているので、そういったところに合う方にはいいと思います。山あいの畑回りを職員と出掛けたり、施設で犬を買っているので、犬とか連れて。あとは認知症の影響で徘徊、離設が多い方は、隣接する家があるところだと大変な部分が多いので、そういう方を極力受け入れますよともお伝えしています。
―お庭と畑があるなんて、いいですね!畑では利用者さんとお野菜を育てたりしているのでしょうか?
はい。今年は秋口にさつま芋がたくさんできる予定です。毎年食べきれなくて(笑)
―そうなると人手というのがとても大事になってくると思うのですが、ちびさんがグループホームの管理者になられてから、畑やお庭のお世話は安定してできていましたか?
そうですね、自分が来てからは畑に力を入れています。利用者さんの状態によっては難しいこともありますが…年中ずっと畑仕事をしてくれていた利用者さんが体調の影響でできなくなって、収穫だけしてもらうようになったり。畑は、家族会で芋掘りをやったり、認知症カフェで収穫祭をやったり、そういうことで活かせるように野菜を作ってはいるんですけど、一緒にしている畑好きな方が、徐々にできなくなってくると職員側で多くをやることになるので、そのへんが難しいなと思いますね。
―今16名お勤めだということなんですけれども、一番少ないときでどれくらいでしょうか?
ええと、一番少ないときだと、自分を入れて13人くらいですかね。
―大きな数の差はないかもしれませんが、それでもこの人数が欠けることで職員の皆さんに掛かる負荷は大きくなりますよね。
そうですね。残業も多かったですし。ちょうど赴任して1年くらいがそんな感じで。
―管理者になって最初の1年が今までで一番大変でしたか?
はい。
―介護福祉士は今、お持ちなんですよね。
はい。今は持っています。
―介護福祉士は管理者をしながら、試験勉強もされたんですよね。すごく大変だったんじゃないでしょうか?
そうですね(笑) 当時、管理者になってずっと言われ続けていたのが「介護福祉士も持っていない管理者が」っていうことで。ちょっと意地になっていて、試験勉強せずに受けたんですよ(笑) 日常的に勉強をしていたので、その日々の勉強でどこまで点数が取れるかと。みんなにも宣言をして。ギリギリでした(笑)
―でも一度で合格されたのですね!
すごいギリギリでしたけど(笑)
―それだけ日々のお仕事のなかで誠実に分からないことについて勉強していたのですね。
本当に分からないことが多かったですからね…
―どういった形で勉強をされていたのでしょうか?
1年だけ老健の経験もありましたが、改めて一から学び直しで。勉強するというか、勉強会を開く側に回らなければいけなかったので、その際の資料を作ったりだとか、新人に伝える内容をまとめたり。あとは介護保険も全然わからなかったので、赤本と青本(介護保険サービスの単位数、指定基準などを網羅した分厚い専門書です:吉田注)をずっと読み漁ったりだとか。あれを読んでいると介護福祉士の試験内容と重なる部分もあるので。
―すごい勉強の仕方ですね。お勉強することそのものに対して苦手意識はあまりないのでしょうか。
給食のときは自分の好きなことをやっていたので、苦もなく勉強していたんですけど、グループホームに来てからは、知らないことで誰かに迷惑かけるのをよく分かっていたので、聞かれたときに答えられるくらいにはしなきゃなという思いで勉強していました。
―調理から畑違いの異動で、「資格も持っていない」と言われて、辛くて投げ出したくなることはありませんでしたか?
なってましたね、毎日(笑)
―それでも続けられたのは、なにか思い当たるところはありますか?
自分が赴任する前に、前任者がトラブルを起こしていて(笑) それのしりぬぐいのために自分が行ったっていう感じなんですけど、それを僕が中途半端に辞めるとその次に迷惑をかけちゃうのはなかなか申し訳なくて。自分も前任者から迷惑はかけられてるんですけど(笑)今振り返ると、すぐ辞めればよかった(笑)
―大変でしたね…ではまずちびさんご自身としては、このホームを軌道に乗せるところまではやろうと。
そうですね、まずはそこまで。それに加えて、現場で、「こういう介護をしたい」っていう若い子が出てきたときに、それを叶えてあげられていなかったんです。僕の中ではそれがとても悔しくて。その子たちと「利用者さんを中心にした介護をやれたらいいな」ってずっと話をしてたので。それが今のリーダーさん二人になるんですけど。
―わあ、そうなんですね!
はい。産休なども挟んでですが、僕が来てからその二人は辞めずに続けてくれているので、それが自分が続けている理由でもあると思います。
―こういうことをやりたいんですって言ってくれる若い子が入ってきてくれたことによって、そういう子たちに応えようっていう思いが支えになって。素敵なお話をありがとうございます。
―いろんな試行錯誤が管理者としてありつつ、現場にも入ることがあったかと思います。介護をする人として利用者さんとかかわる中で、得意だと感じたことがあれば教えていただけますか?
一年だけしか老健を経験してないんですけど、老健での介護ってやっぱりバタバタしているというか。自分がいたところは100人の施設でしたので、朝とかもごちゃごちゃしながらおむつ交換するっていう感じだったんです。
グループホームに来てからは、利用者さんに関わる時間がすごい多いけれど、やるべきことも多くて、利用者さんのペースをつかんでそれに合わせるというか。僕は老健の慌ただしさよりもそちらのほうが肌に合う気がします。ある利用者さんが好きなことを一人でやって、もう一人も好きなことをやって、こっちもまた何かやり始めるっていう状況をわりと楽しめるほうで。多分、決まったことから外れたことをすると焦る職員もいるとは思うんですけど、僕はそれを含めて楽しみながらやれてるほうですかね。怒ることも少ないです。
―怒らない、ということは意識しているのでしょうか?
そうですね、自分が怒ることで職員さんたちがなにか言いづらくなることはやっぱりあるので。利用者さんの前ではもちろん怒らないですし、職員に怒ることもまずないですね。もちろん注意をすることはありますけど、怒鳴るとか、問い詰めて指摘するとかはないです。
―利用者さんにも職員さんも嬉しい管理者さんですね。いろんなことを穏やかに楽しめるということでしたが、逆に、苦手なことはなにかありますか?
うーん…看取りをしていることがあるせいか、僕は極力長く利用者さんと一緒に居たいなっていうのがあって。どうしても最期は見送る形になるので、衰えてくるときに「まだやれるんじゃないか」っていう気持ちになっちゃうことが多くて。あきらめるわけじゃないんですけど受け入れるっていうのがすごいモヤモヤするというか…「あのときもうちょっとこうしてればよかったかな」っていうのをずっと考えて、「なんか自分は介護向いてねえな」って思うことがありますね。
―看取りに際して思い悩むことから、「介護に向いてないんじゃないか」という思いへ動いてしまうことがあるんですね。
割り切れないというか。折り合いがつきづらいというか…わりと引きずるほうなので。看取りをしたいという思いと、それを見ることが辛いなっていう思いとで…そこがアンバランスというか。
―「向いていないんじゃないか」というお考えに少し驚きを感じているのですが、ちびさんのなかでは、そこは冷静に割り切れる強さのようなものが欲しいということなのでしょうか。
ええと…そうですね…割り切れる…年数経っても全然慣れないというか。最初の頃よりは利用者さんに対してできていることが増えているような気もするんですけど、利用者さんとその家族にとっては、いつもそれが1回しかないので。毎回やれる限りのことをちゃんとやれてるのかとか、家族も利用者さんもこれで良かったのかなとか、そういうのをよく考えちゃうほうなので…
―今のリーダーさんたちも、一緒にそのようなお話はされますか?
リーダーともよくそういう話をします。入院するといつ戻ってくるのかとか、少しずつ衰えてくるときに、「こういうのやれないかな」とか。リーダーたちがアクセル役、僕がブレーキ役になったり、僕がアクセルでリーダーがブレーキになったり、押したり引いたりを二人ともしてくれるので、お互いがお互いに支えあって3人でやれているっていう感じですね。
―お話を聞いていると、本当にリーダーさんたちお二人とうらやましいぐらいのご関係で。良き仕事仲間として職場を築いてこられたのだろうと強く感じます。リーダーさんたちは部下に当たりますが、一方でちびさんのキャリアの中で、目標となる方はいらっしゃいましたか?ちびさんの場合ですと、現場で先輩の背中を見てというより、いきなり管理者に異動となってしまっているので、なかなかぴったりと当てはまる人はいないのかなとも思うのですが…
管理者として良くしてくれた方が2人いて。その二人の方には今もお世話になっています。
―良き先輩管理者ということでしょうか?
そうです。
―法人内ですか?
別の法人ですね。その二人の方にいろいろ教えてもらったから今があるかもしれません。
―仕事の悩みなどを相談したら適切にアドバイスをくださったり?
僕がけっこう細かいというか、気にしすぎちゃう部分があるので。その二人の管理者さんは違うタイプのおおらかな人で、「もっとグループホームって自由でいいんだな」みたいな感じを教えてくれたました。すごくありがたかったです。
―そのお二人とはどういったご縁があったのでしょう?
市内でグループホームの管理者が集まる会議で出会いました。自分が当時、集まりの中でも年齢が若かったので、よく連れだしてくれたんです。僕も、やっぱり誰かに聞かないと分からないことがたくさんあったので、二人にはよく相談をしていました。本当に快く答えてくださるので、嬉しかったですね。
―職場の外にそういう方がいるというのはすごく心の支えになりそうですね。
本当にあれがあったおかげで、垣根を超えることの良さを教えてもらえたので。自分も、聞きに行く側でもありますけど、聞かれる側でもあるので、答えられるように努力はしています。してもらってよかったことを、またほかの人にしていきたいですね。
―だからこそ、今の職場に入ってきた人たちにも応えていこうと勉強をされて…本当に素敵な循環で…!
ありがとうございます(笑)
―そろそろ、お時間がいっぱいとなってまいりまして、最後に今後チャレンジしたいこと、課題に思って取り組みたいことがあれば教えていただけますか?
今でもやっぱり利用者さんが…僕どうしても看取りが…大変さでもありやりたさでもあり、上手く言えないんですけど…今も昔も変わらず、どんな利用者さんでもよい終末を迎えさせてあげられるのが一番いいのかなとか思いながら、できることをやるしかないなと。すみませんなんか(笑)
―いえいえ(笑)真剣に答えていただいて、本当にありがとうございます。
今回のインタビューはここまでです。フランクにインタビューに応じてくださる一方、時に迷いながら、言葉を探しながら質問にお答えくださるのが印象的でした。ご協力ありがとうございました。