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特別養護老人ホームに勤務するタロウさん
この度お話をお聞きしたのは、タロウさん(仮名)です。
改まって「仕事のこと」について聞かれることはないということで、最初は少し緊張しつつも、穏やかに話してくださいました。
※インタビューに応じてくださった方に関する個人情報保護の観点から、お名前は仮名とし、職場に関する役職名その他委員会等の名称を実際の名称から一般的な名称に変更しています。具体的なエピソードについても、趣旨を損なわない範囲で編集をしています。
◆今お勤めの施設形態について教えてください。
従来型の特別養護老人ホームです。3フロアに分かれていて、僕が働いているフロアは30名弱の入居者がいます。
◆入居者さんたちを、どんなシフトの人で介護していますか?
日中は早出1人、日勤1人、遅出2人、パートさんや派遣の人がいたら、多くて5,6人です。夜勤は1人で、かつては3フロアを巡回する夜勤専従の派遣さんがいましたが、法人の方針でなくなってしまいました。
◆タロウさんの職種を教えてください。
常勤の介護職員です。今はフロアのリーダーをしています。
◆皆さんを束ねる立場なんですね。お忙しいと思います。定時で帰れますか?
定時はほぼないですね。リーダーの事務仕事を、現場の仕事の後にやったりするので。担当フロアのシフトづくりと、残業届の処理、新入職員の対応検討とか、委員会も早出の定時後残業でありますし。委員会や会議があったら報告書も作りますし。
◆例えば委員会や会議はどれくらいありますか?
機能訓練などの委員会活動に3つ入っています。あとは施設全体の運営会議、フロアの定例会議、フロアリーダーが集まる会議などがそれぞれ毎月ありますね。どれも早出が終わった後残業申請をして参加しなければなりません…
◆得意だと感じる業務はありますか?
食事介助以外は自信あります。
◆食事介助は苦手ですか?
苦手というか、あんまり好きではないということもあって。職場の管理栄養士さんなどが専門的なアドバイスをくれますけど、そこまでの知識も自分にはないですし。最低限新しい人に教えられるようにはなりましたが、難しいなと思います。前に教わったことが今では違ってたりしますしね。
◆それ以外のことは、得意というか、苦手ではない?
そうですね。長いことやってますし。ええと、今年で15年。そうか、早いなあ。
◆長いですね。では、これまで働く中で「この人はすごい」と思ったことはありますか?
最初に勤めた法人の先輩がすごい人やったんです。最初はデイに3か月行ったんですけどその後ユニットの特養に異動して。異動先のユニットで指導担当してくれた人が僕にとっての恩師です。職員の信頼感がすごかったです。職員をほめることもできるし、厳しくもできるし。メリハリがすごい。介護の技術的にももちろん。その人がいなかったら辞めてたかもしれないです。
◆当時新人だったタロウさんの面倒をよく見てくれた?
二つ三つ年上の女性の人やったんですけど。めっちゃ厳しかったです。でも後からフォローしてくれて。その人と働いた1年は忘れなれないですね。でも、その人が僕が異動してから1年で辞めちゃったんですよ。
◆それは残念ですね…。どこかで再会できるといいですね。
2年ぐらい前に、僕がフロアリーダーになるときに相談のメールをしたんですよ。そしたら「ごはん行く?」ってなって。
◆おお。再会されたのですね。
当時もその前の施設で主任とかやっていた人だったので。主任ってどんな感じですかとか相談して。「自分のできることさえやっといたら何とかなるで」ってアドバイスをもらいました。悩まんときと。
◆その方は今も介護を?
いや、今はご家族の仕事を手伝ってるみたいなんですけどね。「もう介護忘れたわ」とか言ってました(笑)
(今の職場の)前の職場の先輩も、僕が一番最初に勤めた法人出身で、恩師のことを知ってるなんて偶然もありました。その先輩もやっぱりすごくって、忘れられないですね。厳しかったけど、いい人に恵まれました。
◆仕事で落ち込むことは?
この前きつかったのが、新規入居の方が転倒・骨折してしまう事故があったんです。施設長から謝りに行くように言われて。家族さんは穏やかに応じてくださったんですが、やっぱり落ち込みましたね。いろいろ考えました。事故が一番落ち込みます。ベテランさんが夜間おむつ交換対応となっていた方の居室にポータブルトイレを置いてしまったのがきっかけの一つになっていて…
◆やり方の統一で問題が起こることはありますね。
そうですね。介助の方法を一人でするか二人でするかとか。骨折からの退院後で、まだリハビリが十分でない人について「おむつ交換から徐々にトイレに移行しよう」と考えていたところをチームの合意が取れる前にトイレに座らせてしまう人がいたり。もちろん善意なんですけど、突っ走ってしまうというか…
◆転じて、嬉しかったことは…
なかなかないですね(苦笑)。給料が上がったくらいかな(笑)。
◆これまでのキャリアで印象に残っているエピソードをあげるとしたら…?
僕がこの仕事を始める前から知っていたおばあさんがいたんですけど、たまたま最初の職場に入所してこられて。最初はやっぱり嫌がられました。男だったというのもあっておむつ交換とか嫌がられて。ただ、だんだんと慣れてくれたんです。そんなころに僕が家の事情で落ち込むことがあって。そのおばあさんが「あんたがしっかりせな」って励ましてくれたんですよ。その時は落ち込んで辛かったけど、ずっと心に残ってます。それがこの仕事を始めて一年目とかの出来事ですね。介護福祉士取ってからも、いろいろ経験はしましたけど、そこまで印象に残るようなことはなかなかないなあ。
◆むしろ慌ただしさのほうが先に立って…?
そうそうそう。
◆最初の施設の形態は…?
ユニットケアのはしりでした。一緒にカラオケ行ったりお祭り行ったりしてました。
◆その施設はどれくらいいたんですか?
一年半くらいです。
◆そこから転職したきっかけは…
施設長に「おまえは向いてない」と言われて、「ほな辞めたるわ」と(笑)。
次のデイ行った時も先輩方は厳しかったですけど、良くしてもらいました。この法人でも特養への異動を言われてしまったんですけど。デイの人たちが送別の品で風呂介助用のTシャツくれて嬉しかったです。異動先の施設でもいい人たちに恵まれました。ずっと続けたかったんですけど、体がもたなくて…。その職場の人とは今もつながってます。
◆ちなみに介護の仕事を始める前はどんな仕事を?
たいしたことは。いろいろフラフラしてました。なので、介護の仕事が唯一続けている仕事ですね。この仕事をする前に、言語聴覚士に興味があって考えたこともありましたよ。
◆最初にこの仕事に就いたときは、何か資格を持っていましたか?
ヘルパー二級を取ってから始めました。
◆介護の転職歴をあらためて、教えていただけますか?
法人は今で三つ目です。異動を含めるとデイ、特養 デイ、特養、特養という具合ですね。
最初のところは初心者やからということで、任される仕事も少しずつだったんですけど、それ以降の異動や転職では、経験者だということで最初からバーンと任されてけっこうしんどかったです。めっちゃストレスかかって。例えば最初の異動先の特養では一つ歳下のリーダーの子がよく声をかけてくれて、あの子がいなかったらやばかったです。思い返すと、行く先々で周りの人には恵まれてたと思います。
◆今の職場でフロア異動はありましたか?
あります。最初のフロアでリーダーになってから、半年ほどで違うフロアの副主任をすることになりました。ただ、それまでにここに勤めて3年は経っていたので、施設になれていたし、異動先の職員、利用者さんも見知った感じだったので、転職ほどの負担はなかったです。
◆ケアの内容について話し合う時間はありますか?
会議もあるんですけど、シフトの都合でほとんど集まれないんですよ。なので普段の仕事の中でやり取りすることが多いですね。管理栄養士さんと、ある食事の進まない利用者さんについて一緒に検討していて、「お漬物」があると、すごく食が進むことを発見したりしました(笑)。
フロアリーダーという立場になってからまわりの職員や他部署から話を持ち掛けられることは多くなりましたね。
◆業務時間以外に仕事の勉強をすることは?
残業が多くてなかなか…
以前ケアマネの更新研修に参加した時は夜勤入り前に研修だったりしてめっちゃしんどかったです。
◆もしも定時退社が定着したら、勉強したいことはありますか?
ケアマネの資格を活かすための勉強です。以前は、今の職場の上司に施設ケアマネのことを教わったりできていたのですが、今はそれも忙しくて難しくなってしまいました。
◆一番むずかしいと感じることは?
人材育成ですね。前の施設でも3,4年人材育成の役をやっていたんですけど、やめてしまう子もいれば、バーッと伸びる子もいるしで難しいです。頑張りますといって次の日に来ない子もいました。
◆まずそもそも教える時間の確保はできますか?
自分の仕事をやりながらなので。最近のことで言えば、自分の部署の新人が、認知症の人への声掛けが不適切で介護職の主任さんとか他部署の人から指摘を受けたりして大変でした。
前の職場は年の近い人が入ってきてたんですけど、今の職場になってから、年上の人が多くて気を遣うことが多いですね。
◆介護の仕事そのものを辞めようと思ったことは?
本気で思ったことはないですね。いやだなと思っても。27,8で始めて、30過ぎたときに定職についていたかったという思いもありますし、食いっぱぐれもないかなと。これからも体さえ壊さなかったら続けていこうと思います。
ちょっぴり尻切れトンボですが、インタビューはここまでです。お仕事の厳しい状況についてのお話もありましたが、深刻な悲壮感を漂わせずにお話されるのが印象的でした(このインタビューでそれをお伝えでいていなかったとしたら、ひとえに吉田の筆力が足らない故とお思いください(汗))